KDDI 株式会社「ビッグデータを活用したスマート漁業モデル事業」

海洋ビッグデータを活用したスマート漁業モデル事業。現場の知見を「見える化」し、漁業の効率化と新しいビジネスモデルにチャレンジしている。

KDDI 株式会社
復興支援室 室長(左) / 復興支援室 マネージャー(右) 阿部 博則 (左) / 福嶋正義 (右)

支援プロジェクトの概要地域産業支援

宮城県東松島市で最新の ICT ・ IoT 技術を利活用し、漁師の知見を「データ化・見える化」することで漁業の効率化や新たな収益モデルの構築を目指す。産官学が連携したチーム体制を組み、事前に漁獲量を把握できるなどの成果が生まれた。今後、全国の漁場での展開も視野に入れている。

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  • Q1プロジェクトの概要を教えてください

    宮城県東松島市で最新の ICT ・ IoT 技術を利活用し、漁師の知見を「データ化・見える化」することで漁業の効率化や新たな収益モデルの構築を目指す。産官学が連携したチーム体制を組み、事前に漁獲量を把握できるなどの成果が生まれた。今後、全国の漁場での展開も視野に入れている。

  • Q2プロジェクトの始まった経緯や、なぜ始めたかを教えてください

    2012 年 7 月に「復興支援室」を立ち上げ、 2013 年 2 月より宮城県東松島市への社員出向を開始。 ICT 技術を活用した支援活動を模索する中、東松島市の漁師が抱える課題が見えてきた。東松島では定置網漁が行われており、今までは 15 分程度で定置網の場所に辿り着くことができた。しかし、震災後は近場の漁港が使えなくなり、自宅も転居せざるを得ないなど環境が大きく変わったため、 1 時間程度を要することになってしまった。これまで往復 30 分程度だった移動時間が 2 時間程度も強いられるようになり、時間のロスの他、車や船の燃料費も余計にかかるようになってしまった。そこで、水中カメラなどで網の中を事前に確認できれば、漁に出ても魚がいないという空振りを減らすことができるのではないかと考えた。
    一方で、漁師は魚に関する知見を色々と持っている。例えば、「シケの翌日は魚が獲れる」「水の色を見れば、どんな種類の魚がいるか予測できる」などだ。シケには気象や潮流との相関関係が、水の色は海の塩分濃度や濁度が関係すると考えられ、これはデータ分析で明らかにできる可能性があった。ここに最新の IoT 技術を導入し、漁師の知見・経験を「見える化」するとともに、新しい知見探しにも取り組むこととした。こうして、出向 2 年目の 2015 年から、漁業(特に定置網漁)の効率化と収益力向上を目指し、 IoT 技術を用いた実証実験を始めた。

  • Q3このプロジェクトの企画・立ち上げで工夫されたことについて教えてください

    事業推進にあたり、まず「スマート漁業モデル事業推進コンソーシアム」を立ち上げた。可能な限り地元の企業・団体が主役になり、成果は最大限に地域と参画企業・団体に還元されるよう事業設計を行った。
    創造的な復興を目指し、東松島市が立ち上げた中間支援組織である一般社団法人東松島みらいとし機構( HOPE )を代表として、地元定置網漁の大友水産株式会社、地元でハイテクなブイを制作する大野電子開発株式会社、さらに市内での調整や他自治体への広報を担当する東松島市が参画した。学術関係では、気象や潮流データの解析を早稲田大学と東北大学が担い、漁師にとって扱いやすいスマホ・タブレット用アプリの開発を岩手県立大学が担当した。 KDDI 総合研究所は通信技術の必要なブイの開発と、漁師が産地直送するビジネスモデルの検討で参画した。こうして、現場をよく知る地元企業と、プロジェクト推進力のある大手企業の産官学連携が生まれた。このメンバーで漁業そのものの効率化を目指す漁獲モデルと、鮮魚直送で収益向上を目指す小売モデルに取り組むこととした。

  • Q4立ち上がったプロジェクトを進めていくために具体的に行ったことを教えてください

    HOPE がプロジェクトマネージャーとなり、プロジェクトを 3 つに分けそれぞれにサブリーダーを任命して事業を推進した。「実験系」は KDDI 総合研究所、「解析系」は早稲田大学、「ビジネスモデル系」は KDDI 総合研究がサブリーダーを担った。
    「実験系」はまず、データ収集のための各種センサーを搭載した「スマートセンサブイ」と水中カメラを搭載した「スマートカメラブイ」の開発を行った。開発したスマートブイを海上に浮かべ、そこにセンサー類を沈めてデータを収集した。同時に、スマートブイの安定運用に向けて、電池の耐久性や交換、システムの監視方法なども検討を進めた。次に、漁師が漁獲データを入力・閲覧するスマホ・タブレット用アプリを開発し、漁業日誌を入力している。
    「解析系」は、既に計測・公開されている情報である「オープンデータ」を収集した。宮城県内の港ごとの水揚げ情報や気象庁が公開している気温情報などを基に、大友水産株式会社の漁獲量との相関関係を探り、漁獲の予測を試みている。
    「ビジネスモデル系」は、漁業の流通に興味を持っている方々にインタビュー調査を行った。魚を新鮮な状態で消費者に届ける新たなビジネスの仕組みをつくるため、必要な環境や制度上の課題などについて調査を進めている。

  • Q5プロジェクトの成果・課題について教えてください

    例えば、大友水産株式会社からは「後継者のためにも自分の勘をデータ化したい」「新鮮で良質な魚を、胸を張って産地から送りたい」とプロジェクトに対する期待の声を頂いている。
    これまで海洋調査用のブイは、一基あたり 2,000 万円程度かかるものが主流だった。また、観測ポイントは必ずしも自分の漁場に近い場所にあるとは言い切れなかったが、漁師が個人で所有できるようなパーソナルなブイ(=スマートセンサブイ、スマートカメラブイ)を開発したことにより、漁師にとって自分の定置網付近の状況をリアルタイムで知ることができるようになった。また、データ解析の結果、「明日獲れる魚の量は今日より多いのか少ないのか」という推定は約 7 割の正解率を達成している。
    一方で、スマートブイの運用では不安定な海でデータ取得を安定させることやメンテナンスの頻度を減らすことなどの課題も出ている。また、正解率も決して 7 割で満足しているわけではない。このほかに、産地直送モデルの実現においては魚市場や漁協、卸業者など既存事業者との折り合い整理が必要なことも見えてきている。

  • Q6成果や課題を踏まえ今後の展望について教えてください

    今後、スマートセンサブイとスマートカメラブイは海洋での運用に長期間耐えられるよう強度を高めつつ、漁師が個人で負担なく買えるような価格に抑え、商用化を目指したい。また、既に北は北海道から南は沖縄まで、漁業関係者から問い合わせを受けている。定置網漁だけでなく、他の漁法でも積極的に活用を検討していきたい。
    また、電池の耐久性も改善したい。現在は実証実験がメインで、膨大なデータを取得しているため 2 週間程度しかもたないが、データの取得量や頻度の適正化、電池そのものの見直しを含むハード面の改善により、2カ月程度にまで延ばしたい。
    データ解析についても、推定精度をさらに向上させるべく、分析手法のさらなるブラッシュアップを図っていく。産地直送モデルの実現においては、規制緩和などの社会情勢の変化を睨みつつ、関係者へ提言できるようになりたい。

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